Sulforaphane LAB

INTERVIEWS.04

太田 嗣人(おおた つぐひと)

旭川医科大学 内科学講座 病態代謝内科学分野 教授 医学博士

肥満・脂肪肝予防に新たな道すじを
期待が高まるスルフォラファンの抗炎症・脂肪蓄積抑制作用

治療につながる研究を―
解明途上の脂肪肝を主テーマに、フィジシャンサイエンティストの道へ

 医師になって20年、一貫して内分泌・代謝を専門とし、臨床と基礎研究の両方に携わってきました。
 金沢大学医学部卒業後の数年間は総合病院の内科医としての仕事がメインでしたが、同大大学院に進学後、糖尿病の合併症の一つ、腎症の治療というテーマと出合い、研究の面白さを知ったのです。研究をしながら臨床にも携わる医師を「フィジシャンサイエンティスト」と言いますが、私もそのスタンスで医師人生を貫きたいと思うようになりました。
 その研究では、糖尿病になるとマクロファージという免疫細胞の一種が活性化して体内に炎症を起こし、それが腎症をはじめさまざまな合併症の発症・悪化に作用することなどがわかりました。
 糖尿病人口は世界的に増え続けており、日本でも大きな問題となっています。研究テーマを合併症から糖尿病そのものの病態解明や治療に広げ携わっていくうち、その基盤となっている肥満や、脂肪肝に代表される内臓脂肪の蓄積にも関心を持つようになりました。脂肪肝は糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病を悪化させるほか、放置すると肝硬変や肝がんに進行しうることが知られています。
 糖尿病にはすでに多くの薬があり、薬物療法が確立している一方、肥満や脂肪肝に対しては、安全性と効果ともにすぐれた治療薬がまだなく、遅れをとっているのが現状です。
 治療につながる研究をして世の中の役に立ちたい―そんな思いを強め、肥満と脂肪肝、およびその進行形であるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の予防と治療へと研究の主軸をおくようになりました。

スルフォラファン前駆体入りの餌でマウスの体重が15%減、
内臓脂肪量も2~3割減少

 肥満を背景とする生活習慣病は、その要因として食生活が密接に関係しています。そこで予防や治療に食品由来で何かいい成分はないか探していたところ、大学で産学連携の方針のもと共同研究に参加していたメーカから紹介されたのがスルフォラファンでした。
 先述のとおり、生活習慣病はマクロファージが産生する物質で炎症が惹起され、発症・悪化することがわかっています。一方スルフォラファンには、体内の抗酸化や抗炎症に関与する転写因子(遺伝子の発現を制御する物質)Nrf2を活性化させる作用があることが、先行研究で知られていました。
 そこで我々の研究グループはこの成分に着目し、動物実験を行ったところ、顕著に良い結果が得られたのです。
 実験の概要は、マウスを4群に分け、通常食、通常食+グルコラファニン(スルフォラファンの前駆体)、高脂肪食、高脂肪食+グルコラファニンのいずれかを、14週間与えたというものです。
 実験後、高脂肪食のみを与えた群に比べ、グルコラファニンを添加した群は15%も体重の減少が見られました。さらに、内臓脂肪量も約20%、肝臓の脂肪量も約30%、高脂肪食にグルコラファニンを添加した群の方が少ないことが画像での検証で確認できました。なお、摂食量は群間でほとんど差はなく、毒性も認められませんでした。
 食品由来のほかの成分でも同様の実験を行いましたが、明らかな体重減が見られたのはグルコラファニンのみでした。

HF:高脂肪食のみ HF+GR:高脂肪食にグルコラファニンを添加
NC:通常食のみ NC+GR:通常食にグルコラファニンを添加
高脂肪食にグルコラファニンを添加した群(HF+GR)は高脂肪食のみの群(HF)に比べ、14週後の体重が15%減少。

高脂肪食のマウス(HF)と高脂肪食にグルコラファニンを添加したマウス(HF+GR)の腹部CT画像を比較すると、明らかに後者の方が、内臓脂肪を示す赤い部分の面積が小さい。

Nagata N, Ota T et al, Diabetes. 66:1222-1236, 2017

肥満に関わる悪玉菌の増殖を抑制
脂肪細胞の質を変え、エネルギー消費を促進する作用も

 それではどのようにして体重が減るのか。次に我々の研究グループは、そのメカニズムの解明に取り組みました。
 検証実験でわかったことは次の2点です。
 一点目は腸内細菌叢の変化です。グルコラファニンは消化吸収の過程でスルフォラファンに変換されます。そこでマウスの腸内細菌叢を調べたところ、肥満で増加する悪玉菌(Proteobacteria – Desulfovibrio)がグルコラファニンを添加した餌を与えたマウスでは抑えられていたことがわかりました。
 この菌が増えるとLPS(菌の細胞壁に付着している菌体内毒素。エンドトキシンともいう)が肝臓に刺激を与え炎症を起こし、線維化を進めるといわれています。グルコラファニンには、そのLPSを減らす作用があることがこのマウス実験で示唆されました。このことから、グルコラファニンは脂肪肝からNASH(非アルコール性脂肪肝炎)へ移行するきっかけを、阻害するのではないかと考えられます。
 肝臓で炎症に関わるマクロファージを調べたところ、炎症を促進するM1と呼ばれる種類は減っている一方、抑制するM2と呼ばれる種類は増えていることもわかりました。
 二点目は、脂肪細胞の質の変化です。グルコラファニンを食べさせたマウスでは、エネルギー代謝量と体温が上がっていることから、グルコラファニンに熱産生を高める作用があると考えられました。ただし、本実験ではマウスの筋肉量に変化は見られず、筋肉の増加で代謝が増えているとは考えられません。そこで脂肪細胞に着目すると、脂肪細胞が持つエネルギー産生を活性化させる脱共役タンパク(UCP1)と呼ばれる分子の量が増加していることがわかりました。
 脂肪細胞は、白色と褐色、その中間のベージュ細胞の3タイプに分けられ、UCP1は褐色で多く、ベージュ、白の順に少なくなっていきます。褐色脂肪細胞はヒトの場合、思春期くらいまでの間にそのほとんどが白色へ置き換わります。しかし白色細胞中のUCP1が増えればベージュ細胞となり、エネルギー消費量も上がります。
 本実験では、グルコラファニンを食べさせたマウスの脂肪細胞中のUCP1が増えており、白色細胞からベージュ細胞へ変化していることが認められました。しかし、Nrf2が欠損したマウスでは、この変化は見られませんでした。
 これらのことから、グルコラファニンにより転写因子Nrf2が活性化されることでエネルギー産生に関わる分子の遺伝子発現が促進され、UCP1が増えてエネルギー産生・消費の促進が誘導されると考えられます。
 この研究結果は、2017年5月、世界的に権威ある米国糖尿病学会の学会誌『diabetes』に論文掲載されました。ブロッコリースプラウト等のスルフォラファンを含む食材の写真が当該号の表紙を飾り、論文内容が評価されたあらわれと光栄に思っています。

ヒト臨床試験を経て、創薬にも期待

 このように、スルフォラファン、その前駆体であるグルコラファニンの作用はマウス実験において、肥満や脂肪肝といった生活習慣病の分野でかなりの手ごたえを得ました。現在はこれらの実績をふまえ、本年中のキックオフを目指してヒト臨床試験の準備を進めているところです。人間でどんな効果がどの程度、どのくらいのスルフォラファン、グルコラファニンの摂取量で得られるのか、その機能性を明らかにしていきます。
 将来的には、創薬への応用も期待しています。冒頭で話したとおり、肥満や脂肪肝に対して効果的な治療薬はまだ少ないので、スルフォラファン、グルコラファニンを使って、安全性が担保されつつ、効果も高い薬の開発に、我々の研究が役に立てばと強く願っています。
 予防も含めて、やはり人の役に立ってこそ研究のしがいがありますし、フィジシャンサイエンティストとしての責務を果たせるものと思っています。