Sulforaphane LAB

インタビュー

INTERVIEWS

INTERVIEWS.02

谷中 昭典(やなか あきのり)

筑波大学 医学医療系 臨床医学域 教授 医学博士
筑波大学附属病院 日立社会連携教育研究センター(消化器内科)

胃がんや大腸がんの予防効果が期待される、
スルフォラファンの抗酸化作用

3名の研究者たちとの出会いから長年のスルフォラファン研究の道へ

 私は筑波大学附属病院で消化器内科医として40年前から内視鏡を用いた診療に携わる傍ら、25年前からピロリ菌の研究も行っています。
 スルフォラファンの研究は2002年、同じ筑波大で酸化ストレスの基礎研究を専門にされていた山本雅之先生(現東北大学教授)との出会いがきっかけでした。
 酸化ストレスは、がんをはじめ、さまざまな疾病のリスク要因になることがよく知られています。山本先生は1990年代後半、転写因子Nrf2を刺激すると酸化ストレス応答(酸化ストレスに打ち克つ力)が高まることを世界で初めて発見した方です。
 同じ頃、米国ジョンズ・ホプキンス大学でポール・タラレー博士とスルフォラファンの抗酸化作用について研究していたジェド・ファヒー博士は、スルフォラファンが胃がんの原因となるピロリ菌に対して強力な殺菌作用を有することを試験管内実験により発見しました。ヒトの体内でもスルフォラファンがピロリ菌に効果があるのか確かめたいと、当時共同研究を行っていた山本先生を通じて、消化器内科でピロリ菌の研究を行っている私に声がかかったのです。
 こうして、2002年から2008年にわたり、マウスの基礎実験ならびにヒトを対象とした臨床研究を共同で実施。マウス、ヒトの両方で、スルフォラファンに「ピロリ菌殺菌作用」および「胃炎改善効果」が期待されることを証明しました。この結果は2009年、がん予防分野で評価の高い米国「Cancer Prevention Research」誌に論文が掲載され、NYタイムス紙で報じられるなど大きな話題となりました。

消化器内科医として、スルフォラファンの胃がんや大腸がんへの予防効果を追求

 私は消化器内科医としての立場から、「酸化ストレスによる消化器疾患の予防」をライフワークに掲げています。特に日本人に多いピロリ菌感染による胃がん、近年食生活の欧米化に伴い増加している大腸がん、人口の高齢化により増加しているアスピリン小腸潰瘍の予防に関する研究に力を入れています。
 胃がん予防研究は、先に挙げたスルフォラファンによるピロリ菌感染の制御と胃炎の抑制に関する研究です。私がスルフォラファン研究を始めた2002年当時、日本人のピロリ菌感染率は5割以上と言われていました。ピロリ菌に感染すると胃粘膜は酸化ストレスにさらされ、ほぼ100%胃炎を起こします。さらにそのうち約10%は胃がんに移行します。私の行った基礎研究では、スルフォラファンはピロリ菌感染マウスの胃粘膜への酸化ストレスを減らし、ピロリ菌量を減少させ、胃炎を軽快させました。さらに、スルフォラファンの臨床効果を調べるため、ピロリ菌感染者を2群に分け、半分の人にスルフォラファンが豊富に含まれているブロッコリースプラウトを、残りの半分の人にはスルフォラファンをまったく含まないアルファルファスプラウトを70g/日、8週間食べてもらい、胃内のピロリ菌数と胃炎の程度を測定しました。その結果、いずれも前者で有意に改善しました(グラフ参照)。この研究結果より、ヒトにおいても、スルフォラファンの継続的な摂取によって、胃粘膜の酸化ストレスが減少し胃炎が軽快し、ピロリ菌量も減少することがわかりました。これは、スルフォラファンの胃がん予防効果についても期待ができる結果です。

 また、小腸に関しては、近年高齢化が進む中で、脳梗塞、心筋梗塞の予防のためにアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用する方が増え、その副作用による小腸潰瘍が増加しています。アスピリンは、酸化ストレスを引き起こすとともに腸内細菌のバランスを悪化させることで小腸潰瘍の原因となることがわかっていますが、これに対する有効な薬がなく医療現場で大きな問題となっています。私達は、NSAID潰瘍を起こしたマウスにスルフォラファン前駆体を経口投与するという研究で、アスピリン小腸潰瘍が予防可能なことを証明し、2013年に論文発表しました(Current Pharmaceutical Design Vol 19: 157-162, 2013.)。スルフォラファンはNrf2を介して抗酸化酵素(HO-1)を誘導するとともに、腸内悪玉菌の増殖を抑制することで、NSAIDsによる小腸潰瘍を予防するものと考えられます。

 大腸がんの予防研究に関しては、マウスの実験で、スルフォラファンによる大腸発がん予防効果を証明しました。現在はヒトを対象に大腸がんの前駆病変であるポリープ発生予防効果に関する臨床試験を進めているところです。

胃炎の程度の指標となる便中のピロリ菌量(グラフ上)、血中ペプシノゲン(PGⅡ)量(グラフ下)ともに、AS(アルファルファスプラウト)群で不変だったのに対し、BS(ブロッコリースプラウト)群で摂取後有意に減少。摂取中止後に上昇している。

最新研究のテーマは、スルフォラファンの便通改善作用

 我々の研究チームは2015年に、スルフォラファンの便通改善作用について臨床研究を行っています。ポジティブな結果が得られ、2017年11月、「Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition」に論文が掲載されました。
 便秘は生活の質を損なう大きな原因となり、国内外問わず大勢の人が悩まされている健康問題であることは周知の事実です。この研究では、治療を行っていない軽度な便秘症の56名を2群に分け、一方はスルフォラファンを豊富に含むブロッコリースプラウトを(BS群)、もう一方はスルフォラファンをまったく含まないアルファルファスプラウトを(AS群)、毎日20g、4週間食べていただきました。その後、便通スコア(CSS)を基にした排便パターンに関するアンケートを実施しました。
 その結果、スコアはAS群ではほとんど変化がみられませんでしたが、BS群では有意に下がっていました。
 過去の研究から、スルフォラファンには酸化ストレスを抑制する作用があることがわかっています。今回の結果は、スルフォラファンを継続して摂ることで酸化ストレスが減り、それによって便通改善作用が期待できることを示唆するものとなりました。
 ブロッコリースプラウト20gは、毎日の食事に無理なく取り入れられる量です。ブロッコリースプラウトの摂取は、便秘とそれにともなう生活の質低下の問題を、日常生活の中で解決できる方法になりうるものと期待されます。

※便通スコア(CSS):便秘症の診断に使われている、便秘の程度やタイプの指標。排便頻度、排便困難頻度、残便感、腹痛など8つの要素から構成されている。このスコアが高いほど、便通に問題があるとされる。

生活習慣に起因する疾患に対するスルフォラファンへの期待

 かつて、がんの発症要因は体質や遺伝が大きいとされていました。しかし今は、食事や運動、喫煙といった生活習慣を筆頭とする外敵要因が7割をも占めると言われています。裏を返せば、生活習慣を見直し、悪い因子を取り除くことでがん発症リスクを下げることが可能ということです。
 しかし、そうはいっても悪い因子を、まったくゼロにすることはまず不可能です。そこでもう一つ、悪い因子で増加する酸化ストレスを抑えるために、生体の防御系を強化することも、がん予防には重要になってきます。
 その観点から、最も身近で継続的に実践できる一つとして、野菜の摂取が挙げられます。特に、抗酸化作用にすぐれた成分が豊富に含まれているものを、賢く選ぶことが望ましいでしょう。私は、その一つとして、スルフォラファンを豊富に含むブロッコリー スプラウトの可能性に期待しています。
 ただし、がん予防は長期戦ですから、偏った食事内容を続けると生体バランスを崩しかねません。がん予防を考慮した食事で大事なのは、「これさえ食べればいい」ではなく、可能性の高い食品を複数、組み合わせて食べることです。