Sulforaphane LAB

インタビュー

Interviews

INTERVIEWS.01

Jed Fahey (ジェド・ファヒー)

ジョンズ・ホプキンス大学 医学部臨床薬理学科 准教授 理学博士
ルイスB/ドロシー・カルマン ケモプロテクションセンター 所長

20年研究してなお広がる、スルフォラファンの可能性

どのような経緯でするフォラファン研究に携わることになったのですか?

 私はもともと植物生理学の研究者で、以前は企業でトウモロコシの胚細胞分裂やバイオ農薬に関する研究をしていました。転機が訪れたのは1993年のこと。その前年に、ブロッコリーに含まれるスルフォラファンにがんの予防効果があることを、ジョンズ・ホプキンス大学のタラレー博士の研究チームが報告していました。このタラレー博士の研究チームで、さらに研究を進めるために植物の分野の研究者を求めているので参加してみないか、という誘いが届いたんです。ちょうどその頃、私はもっと人の健康にダイレクトに貢献できる研究に取り組みたいという気持ちが強くなり、バイオの分野からの転身を考えていました。ですから、誘いを受けたとき、希望を叶える仕事に出会えたことに興奮し、すぐにチームに参加することに決めました。

スルフォラファンの研究で、最初に取り組んだのはどんなことでしたか?

 まずは、ブロッコリーの品種や生育ステージによるスルフォラファン含有量の違いを調査しました。その結果、ブロッコリーの品種によってスルフォラファンの含有量が大きく違うこと、発芽間もない新芽の状態がスルフォラファンの摂取に最適であることを突き止めました。この研究をまとめた論文は1997年に米国科学アカデミーの機関誌PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載され、ニューヨークタイムズでも紹介されるなど、アメリカで大きな話題になりました。

1997年に発表した論文。タイトルは、「Broccoli sprouts: An exceptionally rich source of inducers of enzymes that protect against chemical carcinogens(ブロッコリースプラウト: 発がん物質に対する防御酵素誘導物質の非常に豊かな供給源)」

現在はどのようなテーマで研究を進めていますか?

 これまでに、スルフォラファンの皮膚がんや膀胱がんの予防効果、ピロリ菌に対する殺菌効果、ヒトの体内での代謝経路や安全性についてなど、さまざまな研究に関わってきました。最近では、2014年に自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)の患者に対する臨床試験をハーバード大学やマサチューセッツ総合病院の精神科医らと共同で実施し、スルフォラファンを継続して摂取することでASDの症状が大幅に改善されるという結果を得ています。また、中国江蘇省で2002年から継続して大規模な臨床試験を実施していて、スルフォラファンの大気汚染物質の排出促進効果を確認することができました。アメリカではサプリメントに対する関心が高いことから、スルフォラファンを効率的に摂るための、ブロッコリースプラウトの加工方法についても研究を進めています。

中国江蘇省での臨床試験の様子。現地でブロッコリースプラウトを栽培し、ジュースへ加工し、被験者へ分配した。

今後、スルフォラファン研究の進展が期待できる研究分野を教えてください。

 スルフォラファン研究はこれまで、主にがん予防について研究されてきました。それがここ数年幅広い分野で注目され、研究が進められています。それらはどれも非常に興味深く、関心を絞り込むのは難しいのですが、私はとくに3つの分野に注目しています。
 1つは「肥満」に関係する研究です。アメリカでは肥満と、糖尿病など肥満に由来する疾病の増加が社会問題になっています。これまでにもスルフォラファンの糖尿病予防に関係する研究はいくつか報告があり、日本では老化の原因物質として注目されているAGE(終末糖化産物)に関する研究もその一つです。2つめは「メンタルヘルス」の分野です。私たちの研究チームが、スルフォラファンにASDの症状を緩和する効果を確認したことは前述しました。その他にも日本の千葉大学の研究チームがスルフォラファンの統合失調症予防効果について発表しています。精神疾患の症状の予防や緩和を食品で目指す研究はこれまで例が少なく、非常に画期的です。社会的な意義も大きい研究だと感じています。3つ目は「感染症」に対する効果です。すでに胃に感染することで胃炎や胃がんを引き起こすといわれるピロリ菌については研究がかなり進んでいて、その効果はほぼ「確定」といえるほどです。同様の効果が、他の細菌やウイルスに対しても期待できるのではないかと考えています。感染症については、抗生物質での治療に頼っているのが現状ですが、スルフォラファンのような野菜に含まれる成分で対策を講じることができれば、日常的な予防が可能ですし、大きな費用がかからないので、途上国などでも取り組みが可能です。

スルフォラファン研究にかける「思い」を教えてください。

 今、私の研究チームにはさまざまな分野の研究機関から、共同研究の誘いがひっきりなしに届いています。共同研究をスタートするたびにバックグラウンドをゼロから学ぶ必要があるため、勉強しても勉強しても知識が追いつかないほどです。自身の研究も同時に進めており、あまりのハードワークに、ときには朝起きるのが苦痛に感じられることもあります。しかし、それでも熱意を持って研究を継続できているのは、スルフォラファンが多くの人の健康に寄与していることを実感しているからです。
 ここ最近、アメリカでは食生活の改善に高い関心が寄せられています。それは、がんが典型的な例ですが、多くの病気は突然発症するものではなく、長い時間をかけてからだの中で進行するもので、予防に最も重要なのが食事であるという認識が広がってきているからです。スルフォラファンは野菜から手軽に摂ることができ、まだ明らかになっていないことも含めて、多くの可能性があります。その可能性を明らかにしていくことで、食事の大切さ、とりわけ野菜を摂ることの大切さをより多くの人に伝えていきたいと思います。
(2015年11月20日 東京)

「健康的に食事する」という考えが、より多くの人に浸透することを祈っています。(わたしも含めて、当然、スルフォラファン含有のブロッコリースプラウトも含めて)